
AISCEAS(アイセアス・アイシーズ)モデルは、デジタル時代における消費者の購買行動を深く分析した7段階のフレームワークです。2005年に有限会社アンヴィコミュニケーションズによって提唱され、従来のAIDMAやAISASモデルをさらに発展させたものです。
AISCEASの7つのステージ
🎯 認知段階
- Attention(注意): 商品・サービスの存在を初めて知る
- Interest(関心): 「ちょっと良さそう」と興味を持つ
🔍 比較検討段階(最大の特徴)
- Search(検索): Google検索やSNSで詳しい情報を調べる
- Comparison(比較): 他の商品・サービスと価格や機能を比較する
- Examination(検討): 口コミ、レビュー、仕様を詳細に吟味する
⚡ 行動段階
- Action(行動): 実際に購入・予約・契約する
- Share(共有): SNSや口コミで体験を発信し、次の消費者に影響を与える
従来モデルとの決定的違い
AIDMA(1920年代)vs AISCEAS
項目 | AIDMA | AISCEAS |
---|---|---|
背景 | マスメディア時代 | インターネット・SNS時代 |
ステップ数 | 5段階 | 7段階 |
特徴 | 受動的な情報受信 | 能動的な情報収集・比較 |
購入後 | 完了 | 情報発信で新たなサイクル開始 |
AISAS(2004年)vs AISCEAS
AISCEASの最大の特徴は、AISASの「Search(検索)」を3つの段階に細分化した点です:
AISAS: Attention → Interest → Search → Action → Share
AISCEAS: Attention → Interest → Search → Comparison → Examination → Action → Share
現代的な購買行動の実態
なぜ3段階の比較検討が重要なのか?
現代の消費者は購入前に:
- 平均4-6つの情報源を参照
- 競合他社との詳細比較を実施
- レビューサイトで実際の利用者の声を確認
- 価格比較サイトで最安値を調査
この徹底的な情報収集行動こそが、AISCEASが重視する**Comparison(比較)とExamination(検討)**段階です。
業界別活用戦略
🏨 ホテル・宿泊業の場合
Attention/Interest段階
- Instagram広告での美しい施設写真
- 旅行系YouTuberとのタイアップ
Search/Comparison/Examination段階
- Google Maps上での充実した施設情報
- 楽天トラベル・じゃらん等での詳細な部屋情報
- TripAdvisor等での実際の宿泊体験レビュー
Action段階
- 複数の予約サイトでの在庫提供
- 直接予約時の特典提供
Share段階
- チェックイン時のSNS投稿促進キャンペーン
- ハッシュタグ投稿での特典付与
💄 美容・サロン業界の場合
Search/Comparison/Examination段階
- ビフォーアフター写真の充実
- 施術者の技術レベル・資格情報
- Google口コミでの詳細な施術体験談
- 料金の透明性(追加料金なし等)
デジタルマーケティングへの具体的応用
SEO戦略での活用
- Search段階: 「[商品名] 口コミ」「[サービス名] 評判」での上位表示
- Comparison段階: 「[商品A] vs [商品B]」比較記事の作成
- Examination段階: 詳細なFAQ、導入事例、スペック比較表の充実
コンテンツマーケティング戦略
- 認知段階: ブログ記事、プレスリリース
- 比較検討段階: 比較記事、レビュー記事、導入事例
- 行動段階: ランディングページ最適化、決済フローの改善
- 共有段階: SNSシェアボタン、レビュー投稿促進
BtoB企業での特別な考慮事項
BtoBでは比較検討段階が特に重要で、以下の特徴があります:
複雑な意思決定プロセス
- 購買担当者、部門長、承認者など複数の関係者が関与
- 感情よりも合理性を重視した判断
- **ROI(投資対効果)**の明確な提示が必要
AISCEASのBtoB適用
- Search段階: 業界レポート、ホワイトペーパーの提供
- Comparison段階: 競合他社との機能・価格比較表
- Examination段階: 無料トライアル、デモンストレーション、既存顧客の導入事例
成功させるための5つのポイント
1. カスタマージャーニーマップの作成
各段階でのユーザーの行動、感情、課題を詳細に可視化し、適切なタッチポイントを設計する。
2. 情報の一貫性確保
公式サイト、比較サイト、口コミサイト全てで一貫した情報を提供し、消費者の混乱を避ける。
3. レビュー・口コミ戦略
良質なレビューを増やすための仕組み作り(レビュー投稿促進、アフターフォロー充実)。
4. サイクル型思考
Share段階での情報発信が新たなAttention段階を生み出すサイクルを意識した施策設計。
5. データ分析と改善
各段階での離脱率を分析し、ボトルネックとなっている段階を特定して重点的に改善。
注意すべき限界と課題
モデルの限界
- 商品特性による違い: 高額商品は長期検討、日用品は検索・比較を飛ばすことも
- 非線形な行動: 必ずしも順番通りに進まず、途中で戻ったり段階を飛ばしたりする
- Shareの両面性: 良い体験は強力な武器になるが、悪い体験は致命的なダメージに
現代的な課題
- 情報過多: 消費者の検索疲れ、情報収集コストの増大
- 偽レビュー問題: 信頼できる情報源の見極めが困難
- プライバシー意識: 過度なターゲティング広告への反発
まとめ:AISCEASを活用した競争優位の構築
AISCEASモデルは、現代の複雑な消費者行動を理解するための強力なフレームワークです。特に比較検討段階(Search→Comparison→Examination)を重視することで、従来のモデルでは捉えきれなかった現代消費者の行動パターンを正確に把握できます。
成功のカギは、各段階で消費者が求める情報を適切なタイミングで提供し、スムーズな購買体験を創出することです。そして購入後のShare段階を通じて新たな顧客獲得サイクルを回していくことで、持続的な成長を実現できるでしょう。
AISCEASは単なるフレームワークではなく、デジタル時代の消費者心理を深く理解するための「地図」として活用することで、より効果的なマーケティング戦略の構築が可能になります。
参考資料:
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