目次
1. NPSの概要と定義
NPS(Net Promoter Score)は、2003年にフレッド・ライクヘルド氏によって開発された顧客ロイヤルティを測定する指標です。「この企業・商品・サービスを友人や同僚に推奨する可能性はどの程度ありますか?」という単純な質問を通じて、顧客の満足度と忠誠度を数値化します。
NPSは0から10の11段階で評価され、回答者を3つのカテゴリに分類します。この指標は企業の成長率と強い相関関係があることが実証されており、世界中の多くの企業で採用されています。
2. NPSの計算方法
基本的な質問
「この企業・商品・サービスを友人や同僚に推奨する可能性はどの程度ありますか?」
0(全く推奨しない)〜 10(強く推奨する)の11段階で評価
NPS = プロモーターの割合(%) − デトラクターの割合(%)
計算例
調査回答者100名の場合:
- プロモーター(9-10点):50名(50%)
- パッシブ(7-8点):30名(30%)
- デトラクター(0-6点):20名(20%)
NPS = 50% – 20% = +30
3. NPSスコアの解釈
デトラクター
0-6点
不満を持つ顧客。ネガティブな口コミを広める可能性が高く、企業の成長を阻害する要因となる。
パッシブ
7-8点
満足しているが熱狂的ではない顧客。競合他社に乗り換える可能性がある。
プロモーター
9-10点
熱狂的なファン。ポジティブな口コミを広め、企業の成長を促進する。
NPSスコアの評価基準
NPSスコア範囲 | 評価 | 説明 |
---|---|---|
+70以上 | 優秀 | 世界トップクラスの顧客満足度 |
+50〜+69 | 良好 | 多くの業界で上位レベル |
+30〜+49 | 平均的 | 一般的な企業レベル |
0〜+29 | 改善必要 | 顧客満足度に課題あり |
0未満 | 危険 | デトラクターがプロモーターを上回る状態 |
4. NPSのメリットとデメリット
メリット
- シンプルさ:単一の質問で測定でき、理解しやすい
- 比較可能性:業界や時系列での比較が容易
- 予測力:企業成長率との相関関係が実証されている
- 行動指向:顧客の推奨行動に直結する指標
- 組織統一:全社で共通の指標として活用可能
- 低コスト:実施コストが比較的安価
デメリット
- 文化的バイアス:国や文化による評価傾向の違い
- 詳細不足:改善点の具体的な特定が困難
- 瞬間的評価:一時的な感情に左右される可能性
- 業界差:業界特性による適用限界
- パッシブ軽視:中間層の顧客の扱いが曖昧
5. 効果的なNPS調査の実施方法
調査設計のポイント
- 適切なタイミング:
- 購入直後、サービス利用後
- 定期的な関係性調査(四半期など)
- 重要なタッチポイント後
- 対象者の選定:
- 十分なサンプルサイズ(最低200-300回答)
- 顧客セグメント別の分析
- 代表性の確保
- 追加質問の設計:
- 「その評価の理由を教えてください」
- 「どのような改善があれば推奨度は上がりますか?」
- 属性情報(利用期間、頻度など)
実施チャネル
チャネル | メリット | デメリット | 適用場面 |
---|---|---|---|
メール | コスト効率、自動化可能 | 回答率低下の可能性 | 定期調査、フォローアップ |
アプリ・ウェブサイト | リアルタイム収集 | バイアスの可能性 | サービス利用直後 |
電話 | 高回答率、詳細聴取可能 | コスト高、時間制約 | 重要顧客、詳細分析 |
SMS | 迅速な回答 | 文字数制限 | 即座のフィードバック |
6. NPSスコア改善のための具体的施策
デトラクター対策
- 即座のフォローアップ:24-48時間以内の個別対応
- 根本原因の特定:不満の詳細分析と改善計画策定
- サービス回復:適切な補償や追加サービス提供
- 継続的なコミュニケーション:改善状況の定期報告
パッシブからプロモーターへの転換
- パーソナライゼーション:個別ニーズに応じたサービス提供
- 付加価値の創出:期待を超える体験の提供
- エンゲージメント強化:積極的なコミュニケーション
- ロイヤルティプログラム:継続利用への動機付け
プロモーター活用
- 紹介プログラム:友人紹介の仕組み構築
- レビュー・証言活用:マーケティング素材として活用
- アドボカシーマーケティング:ファンコミュニティの形成
- 継続的な関係維持:VIP待遇やイベント招待
7. 業界別NPSベンチマーク例
業界 | 平均NPS | トップ企業NPS | 特徴 |
---|---|---|---|
オンライン小売 | +30 | +70(Amazon等) | 利便性重視、配送品質が重要 |
航空業界 | +10 | +60(Southwest等) | サービス品質、定時性が重要 |
銀行・金融 | +15 | +50(地方銀行等) | 信頼性、手数料に敏感 |
通信業界 | +5 | +40 | 価格競争激化、解約率高 |
ホテル業界 | +25 | +80(高級ホテル) | 体験価値、おもてなしが重要 |
SaaS | +35 | +70 | 継続利用、機能性重視 |
保険業界 | +20 | +45 | 請求処理の迅速性が重要 |
8. NPSとその他の顧客満足度指標との比較
指標 | 測定内容 | メリット | デメリット | 適用場面 |
---|---|---|---|---|
NPS | 推奨意向 | シンプル、予測力高 | 詳細分析困難 | 全社指標、成長予測 |
CSAT | 満足度 | 直接的、理解しやすい | 将来行動予測困難 | 個別体験評価 |
CES | 利用容易性 | 改善点明確 | 感情面捉えにくい | プロセス改善 |
CLV | 生涯価値 | 経済的影響明確 | 計算複雑、予測困難 | 投資判断、戦略策定 |
チャーンレート | 解約率 | 具体的行動指標 | 事後指標、予防困難 | リテンション分析 |
指標の使い分けと組み合わせ
効果的な顧客満足度測定には、複数の指標を組み合わせることが重要です:
- NPS:全社レベルの戦略指標として活用
- CSAT:個別のタッチポイント改善に活用
- CES:プロセスやシステムの使いやすさ改善に活用
- 定性フィードバック:具体的な改善点の特定に活用
これらを統合的に分析することで、顧客体験の全体像を把握し、効果的な改善施策を立案できます。NPSを起点として、より詳細な分析や行動につなげていくアプローチが推奨されます。
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