
第2章|誰にも見られていなかった店
店は、確かにそこにあった。
看板も出ている。
照明もついている。
音楽も流している。
それでも、その夜も客は来なかった。
第1ブロック|過去・導入
オープンしたら、誰かは来る。
どこかで、そんな「当たり前」を信じていた。
でも現実は、違った。
一人も来なかった。
本当に、一人も。
ドアの外を何度も見た。
人影が動くたび、身体が少し前に出る。
でも、それはただの通行人だった。
時間だけが過ぎていく。
グラスは減らない。
会話も生まれない。
店の中は静かで、
静かすぎて、自分の呼吸の音がやけに大きく聞こえた。
「何かが間違っている」
でも、
何が間違っているのかは分からなかった。
第2ブロック|葛藤・転換
集客のために、SNSを始めた。
と言っても、
何をどうすればいいのか、正直よく分かっていなかった。
パソコンの前に座って、
スマホを触りながら、
見よう見まねで投稿を作る。
写真を載せて、文章を書いて、投稿する。
それだけで、誰かに届くと思っていた。
でも、数字は動かなかった。
表示回数は、ほとんど増えない。
「0」か、よくて「一桁」。
いいねも、コメントもない。
反応がないというより、
見られていない感覚だった。
店の中が静かなだけじゃない。
スマホの画面の中も、静かだった。
二つの無音に挟まれて、
自分がどこにも存在していないような気がした。
それでも、やめなかった。
理由は立派なものじゃない。
やめ方が、分からなかった。
だから、調べた。
夜中に検索して、記事を読んで、動画を見た。
正解かどうかは分からない。
それでも、昨日と同じことだけはしたくなかった。
投稿の内容を変える。
写真を撮り直す。
文章を短くする。
数字を見て、また考える。
そんなことを、何日も繰り返した。
ある日、
表示回数が二桁になった。
理由は分からない。
何が良かったのかも、はっきりしない。
でも、画面の向こうに、
知らない誰かがいることだけは分かった。
第3ブロック|現在・暫定結論
その後、少しずつ反応が増えた。
投稿を見た、という人が来た。
初めて、その言葉を店の中で聞いた。
たった一人でも、
「誰かに届いた」という感覚は、思った以上に重かった。
この場所は、
何もしなければ、何も起きない。
でも、
見えない相手に向かって手を伸ばし続ければ、
どこかで繋がる可能性はある。
まだ、うまくいっているとは言えない。
胸を張れる状態でもない。
ただ、
この店は、
少しだけ世界と繋がり始めた。
それが正解かどうかは、分からない。
今はこの感覚を頼りに、
次の段階へ進もうとしている。
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